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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(オ)782号 判決 1957年12月17日

主文

原判決を破棄し本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人金子文吉の上告理由第二点について。

本件記録によれば、上告人は被上告人から上告人に対する本件手形金請求事件の第一審において敗訴の判決を受けたので原審に対して控訴の申立をした上、その口頭弁論期日において新に、上告人は被上告人の不法行為により損害を受けたから、その損害賠償債権と本訴手形金債務とをその対当額において相殺する旨主張したのであるが、被上告人は数回に亘る原審口頭弁論期日に一回も出頭しないだけでなく、上告人の新な右主張に対する答弁書その他の準備書面をも提出せず、他に上告人の右主張事実を争つた形跡の窺うに足るものがないことが明らかである。当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を明らかに争わないときは、その事実を自白したものとみなされ、裁判所もその事実に拘束されることは、民訴一四〇条の規定に徴し明白であるから、被上告人が右の如く原審口頭弁論期日に出頭もせずまた上告人の新な主張事実に対する答弁書その他の準備書面をも提出しない以上、弁論の全趣旨から被上告人が右の事実を争つたものと認むべき事情のないかぎり、原審としてはその事実を認めこれに基いて裁判をすべかりしものといわなければならない。被上告人が本訴請求を維持している事実は未だもつて上告人の反対債権存在の事実を争つているものということはできない。然るに原審は何ら特段の事情を示すことなく、上告人の新な右主張事実につき証拠調をした上、上告人主張の不法行為の事実のみを認め、ただこれによる損害の額を確定しえないとする趣旨の下にその主張を排斥したのであつて、右は民訴一四〇条の規定に違反して事実を確定したかまたは理由不備の違法を犯したものというべく、論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。

よつて、その余の論旨に対する説明を省略し、民訴四〇七条により裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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